足りないことが、普通になった半年 "書き換わった定員"

(更新: ) 著者: ナギ
#欠員 #人手不足 #上司への伝え方 #管理職 #マネジメント #書き換わった定員 #人員計画 #40代
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夕方の静かなオフィスで、誰も座っていないデスクを振り返って見ている40代の管理職

チームから、一人抜けたことがあります。

補充はすぐには来ませんでした。それでも仕事は止まりませんでした。分担を組み直し、僕も一部を持ち、「なんとか回っています」と答えているうちに、半年がたちました。

半年後、僕は次の期の計画を、今いる人数から考え始めていました。

足りない人数が、僕の中では普通になっていたのです。この記事では、「回っています」と答えた僕が、何を見えなくしていたのかを書きます。

一人抜けた日、返ってきたのは「まずは今の体制で」だった

一人抜けても、仕事はすぐには止まりませんでした。

チームの一人が抜けることになった時、すぐに代わりの人が入るとは限りません。事情は理解できます。人を動かすには他の部署の状況があります。適任の人が、すぐに見つからないこともあります。

だから最初に返ってきたのは、この言葉でした。

まずは、今の体制でやってみてください。

僕も答えました。分かりました。しばらく、この人数で回してみます。

この時点では、本当に一時的な対応のつもりでした。一人分の仕事を分け直す。優先順位を組み替える。僕も一部を持つ。日によっては、誰かの退勤が遅い時間になることもありました。短い期間なら、何とかなる。そう思っていました。実際、何とかなってしまったのです。

これを、うまくやれた話として書きたいわけではありません。この時点で見直すべきだったのだと、今は思っています。

実際、仕事は止まりませんでした。納期は守られ、大きな問題も起きませんでした。

ただ、止まらなかったのは、応急処置が効いていた間だけでした。分担の組み直しも、僕の割り込み対応も、遅い時間の作業も、長く続けられる形ではありません。

当時の僕は、「止まっていない」という結果だけを見ていました。

「なんとか回っています」と答えた。嘘ではなかった

「回っています」は、事実でした。

上司から聞かれたことがあります。今の体制で、どうですか。

僕は答えました。なんとか回っています。

僕には、「回っていません」と答えることが、自分の采配不足を認めるように感じられました。そのため、「なんとか回っています」を選びました。

嘘をついたつもりはありません。納期は止まっていない。重大な問題が続いているわけでもない。必要な仕事は、ひとまず進んでいる。だから、あの答えは嘘ではありませんでした。

ただ、似た場面で口にしていた「大丈夫です」を思い出すと、あの言葉には二つの意味がありました。

問題がまったくない、という大丈夫。

問題は起きているけれど、今のところ持ちこたえている、という大丈夫。

僕は後者の意味で答えていました。でも、受け取る側には、前者として届いていたかもしれません。

僕は「ぎりぎり持っています」という意味で送り、上司は「問題なく回っています」と受け取ったかもしれません。僕は、その言葉の手前にある事情を渡していませんでした。

同じ「大丈夫です」の一言が、問題は起きていないという意味と、問題はあるが今は持ちこたえているという意味の二つに分かれて受け取られる図
図1:同じ「大丈夫です」が、二つの意味に分かれる

僕のあの答えも、後者の側でした。「苦しいけれど、なんとか持たせています」という意味で使いました。上司から見れば、「今の人数でも、業務は成立している」という情報になります。

「回っています」は、状況を伝える言葉のつもりでした。その同じ一言が、補充する理由を静かに弱くしていました。

僕の答えには、大事な部分が抜けていたからです。何を後ろへずらしているのか。誰が多く持っているのか。どの仕事の水準を下げているのか。本来始めたかった何が、止まったままなのか。

そこまで、伝えていませんでした。

ナギ
僕は「ぎりぎり持っています」のつもりで言っていました。でも、その「ぎりぎり」の中身を、一度も言葉にしていなかったんです。

ナギ

上司にもっと聞いてほしかった、だけでは終われません。僕自身が、「なんとか」の中身を伝えていなかったからです。上司への伝え方の記事でも書いた通り、上司もまた、その上から降りてくる話の間に立っています。

同時に、僕が部下から「大丈夫です」と言われた時も、その一言の奥に何が止まっているのかを確かめる必要があります。

半年たつと、足りないことが普通になっていた

半年たつと、僕は今の人数を前提に仕事を考えるようになっていました。

欠員が出た直後は、「一人足りない」という感覚がありました。元の人数を覚えているからです。

ところが、その状態が数か月続くと、変化が起きます。会議の役割分担も、案件の持ち方も、今いる人数に合わせて組み直してあります。組み直した形で日々が回っているので、考えごとの起点が、いつの間にか今の人数になっています。

決定的だったのは、次の期の計画を考え始めた時です。僕は「今の人数で、どこまでできるか」から話を組み立てていました。

その時、少し怖いと感じました。

紙の上の定員は、一人も減っていません。減っていたのは、僕が数えている人数のほうでした。一人足りないまま仕事を続けるうちに、足りない人数が、僕の中の定員になっていました。会社が決めた定員ではありません。書き換わったのは、僕の中の定員です。

足りない状態に慣れたことで、足りていた頃の人数を、自分から数えなくなっていました。

紙の上の定員は変わらない直線のまま、僕の中の定員だけが数か月かけて静かに下がっていき、二本の線の間に止めた仕事と誰かの無理がたまっていく図
図2:紙の上の定員は変わらない。書き換わるのは、僕の中の定員

この状況は、僕の職場だけではないようです。パーソル総合研究所の調査では、欠員の77.0%が、調査時点で補充されていませんでした。

多くの職場で、欠員が埋まらないまま日々が続いています。そして続けられた日数が、その人数で回せる実績として積み上がっていきます。

出典:パーソル総合研究所「オフボーディングに関する定量調査」(2024年11月発表。欠員の77.0%が未補充=「補充はなかった/しなかった」47.4%と「募集中だができていない」29.6%の合計)

先に止まったのは、今日の納期に関係のない仕事だった

止めていたのは、あとから効いてくる仕事でした。

僕の中の定員は、何も変えずに書き換わったわけではありません。

急がない検討を後ろへずらす。改善に使う時間を減らす。丁寧に行っていた共有や振り返りを短くする。新しく始めたかったことを先送りする。

そうやって、今日の納期に直結しない仕事から止めていました。中でも先に止まったのは、将来の手間を減らすための改善と、判断の根拠になるデータをそろえておく仕事と、次の仕事の準備でした。

それらを止めても、今日の仕事は回ります。だから「大丈夫です」と答えられます。でも、止めているのは余分な仕事ではありません。あとから効いてくる仕事です。今日を守るために、明日の分の時間を先に使っていました。その状態を、僕は「回っています」の一言に隠していました。

止め続ければ、来年も同じ手間が残ります。判断の精度は上がりません。そして、次の欠員に弱くなります。

もう一つ、書いておきたいことがあります。この半年を、誰かの無理でしのいだ話にはできない、ということです。分担の組み直しの中で、誰かの負担は確実に増えていました。無理を前提に成立している体制だったなら、それは管理職として見直すべき状態でした。

日頃の業務改善によって生まれた余裕が、突然の欠員を吸収してくれることはあります。僕の職場でも、以前より少ない工数で進められる仕事は増えています。ただ、一時的に耐えられた事実と、これからの人数の話は、分けて考えるようにしています。

ナギ
止めても、今日は誰も困らない。だから止めていることに、僕自身も気づかなくなっていました。

ナギ

答え方を変えた。「何を止め、いつまで続けられるか」

答え方を変えました。回っているかどうかではなく、何を止めているかを渡します。

気づいてから、上司への答えをこう変えました。

必須の案件は進んでいます。そのために、改善の取り組みと、次の案件の準備を止めています。

以前の答えと比べると、上に渡る情報が変わります。話の中身が、人数から仕事に変わるからです。

さらに、渡す中身を4点に整理しました。

  1. 今の人数で、守る仕事
  2. 一時的に、止める仕事
  3. この状態を続けられる期限
  4. いつ、何を戻すか

たとえば、こう伝えます。

必須案件は予定どおり進めています。
そのため、改善の取り組みと次の案件の準備を止めています。
この状態を続けられるのは今期までです。
次の期もこの人数なら、担当範囲を関係先と見直す必要があります。

これなら、弱音でも増員の要求でもありません。管理職としての判断材料です。

今の人数で守る仕事、一時的に止める仕事、続けられる期限、いつ何を戻すかの4枚のカードが、上へ渡す判断材料としてまとまる図
図3:回っているかどうかの代わりに、この4点を渡す

長く続くと分かった時にやることも、決めました。仕事の量を変えることです。上と合意したうえで、関係先へは僕から事情を説明し、今の人数ではここまでを優先します、と線を引きます。人が減ったのに、以前と同じ量と水準を続ける前提を、管理職が残してはいけないと思うようになりました。

もう一つ、小さな工夫があります。次の期の計画を作る時、最初の1枚だけは、今の人数を書かずに作ってみることです。必要な仕事を先に並べて、人数はそのあとで重ねます。要求どおりに認められるとは限りません。それでも、今いる人数がそのまま必要人数として次の期に引き継がれることは、避けられます。

答え方を変えて、補充がすぐに決まったわけではありません。ただ、返ってくる言葉は変わりました。「回っているか」を確認される時間が、「どれを戻すか」「いつまでか」を相談する時間になりました。少なくとも、何も問題なく回っているという誤解は、僕の答えからは生まれなくなりました。

部下から返ってくる「大丈夫です」を額面どおりに受け取らない、という話は、以前書きました。今回はその逆側で、僕自身が、上へ「大丈夫です」と答える側でした。

まとめ|次の期の人数は、今の答えの言葉で決まる

ここまで書いてきたのは、数え方を取り戻した話です。補充は、まだ決まっていません。

一時的な体制のつもりで始めたのに、止まらなかったことで、それが普段の体制になっていきました。僕の「大丈夫」はぎりぎりの意味で、相手には問題なしと届いていたかもしれません。そして止めていたのは、あとから効いてくる仕事でした。半年かけて、僕の中の定員は静かに書き換わっていました。

だから今は、答えの単位を変えています。回っているかどうかの代わりに、何を止めていて、いつまで続けられるかを渡す。長く続くなら、上と合意して、仕事の範囲を決め直す。

次の期の人数は、今の僕の答えを材料に決まっていきます。

次の期を考える時、最初の一枚には、今の人数を書かない。必要な仕事を先に並べ、そのあとで人数を重ねる。僕はそこから、数え方を戻すようにしています。

※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人や組織が分からないように再構成しています。

— Calmly. Surely. —


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