初回の1on1に、正解の質問はいらなかった。 − 「ゼロ点合わせ」という考え方 −
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新しく部下が来ることになった時、僕は「最初の1on1で何を話すか」を考えていました。
良い質問を、いくつか用意しておこう。話を、ちゃんと聞こう。そう思って面談室に入りました。
30分後。
会話は、一度も途切れませんでした。空気も悪くなかったと思います。
でも、部屋を出てから気づきました。話していたのは、ほとんど僕でした。
話を聞くつもりで始めた1on1で、僕が7割話していました。
もし「初回の1on1で何を話すか」を探してこのページを開いた人がいたら、少しだけ付き合ってください。僕も同じことを探していました。そして、質問より先にやることがあった、という話です。
ナギ
📒 先に、この記事の予告を3行
- 初回の1on1は、正解の質問を探すより先に「ゼロ点合わせ」
- 合わせるのは相手ではなく、相手を見る自分の物差し
- 初回の成果は、本音を聞けた量ではなく「次も話してよい」と思ってもらえたか
話を聞くつもりで、僕が7割話していた
あの30分で、何が起きていたのか。振り返ると、こうでした。
最初に、簡単な質問をします。これまでの仕事のこと。ここまでの印象。
相手は丁寧に答えてくれます。でも、初対面の上司相手です。答えは短く、そこで一度、間ができる。
その沈黙が、僕は苦手でした。場の空気が悪くなったように感じて、僕が話し始めるんです。
このチームの仕事のこと。自分の考え方。困った時の相談の仕方。これまでの経験。
相手に安心してもらうために話しているつもりでした。でも終わってみれば、僕の説明会になっていました。
話している最中は、会話が途切れないので、うまくいっているように感じます。けれど、少なくとも、相手の中に何が残ったのか、僕には分かりませんでした。
沈黙を埋めることと、安心して話せる空気を作ることは、同じではありませんでした。
面談の最後に、「困ったことがあったら、いつでも言ってください」と伝えました。でも、その後しばらく、その人から相談が来ることはありませんでした。話せる関係を作る前に、相談の入り口だけ置いていたのだと思います。
1on1を、僕は教わっていなかった
念のため書いておくと、これは「上司が反省すべきだ」という話ではありません。
考えてみれば、少なくとも僕は、1on1のやり方を、きちんと教わった記憶がありません。
会議の進め方は先輩の見よう見まねで覚えました。報告書の書き方は直されながら覚えました。でも、部下と一対一で30分話す時間の使い方は、教わらないまま、ある日「やることになった」。そういう人は、僕だけではない気がします。
調査を見ると、同じように感じている上司は、少なくないようです。パーソル総合研究所が2024年に行った「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」(従業員50名以上の企業で、直近半年に1on1を行った正社員3,000名。うち上司1,500名・部下1,500名/複数回答)では、上司1,500名が1on1で困っていることの第1位は「面談について学ぶ仕組みがない」で35.4%でした。
困りごとの1位は、進め方でも部下の反応でもなく、「学ぶ仕組みがない」ことでした。2位は「多忙で予定が組めない」で35.3%。ほとんど横並びです。上司の悩みは、「時間がない」と「習っていない」の二つに割れていました。
時間のなさは、想像がつきます。でも、もう半分が「習っていない」だったことには、妙に納得しました。
教わらないまま、良かれと思って何かを話している上司は、僕のほかにも少なくないのだと思います。僕が7割話していたのも、その一つの形でした。
沈黙を、上司の準備不足だけで片づけることはできません。準備した質問が悪かったとも限らない。それでもうまくいかないから、この時間は難しいんです。
「特にないです」と言われた日
初回の面談の終わりに、僕はよくこう聞いていました。
「何か、質問はありますか」
返ってきたのは、こうでした。
「特にないです」
そして、沈黙。
僕は、その沈黙に耐えられませんでした。「最初は分からないことも多いと思うけれど」「このチームでは、こういう進め方をしていて」と、また自分から話し始めました。
あとから考えると、相手はまだ、僕がどんな上司なのかも分かりません。どこまで話していいのか、話したことがどう受け取られるのかも分からない。そんな相手に、いきなり「何かありますか」と大きな箱を渡していたんです。
以前、僕自身が会議で「特にありません」と答えた日のことを書きました。今度は、それを言われる側でした。
同じ言葉でも、意味は一つではありません。
本当に何もなかったのかもしれない。
まだ、言葉になっていなかったのかもしれない。
僕の話が多くて、入る場所がなかったのかもしれない。
答えを決めることは、できません。ただ、一つだけ言えることがあります。
相手が話さなかったのではなく、僕が、相手が話せるようになるまで待てなかった。相手の言葉が出てくる前に、僕が空白を埋めていた。
初回の「特にないです」を、本音がない、主体性がない、と測ってはいけなかったのだと思います。
初回の1on1で、僕は「測ろう」としていた。本当は、「ゼロ点を合わせる」時間だったのに。
新しい部下との1on1は、測る前に「ゼロ点合わせ」
僕の仕事では、何かを測る前に、まず基準が合っているかを確認します。ゼロがずれた状態で測れば、どれだけ細かい数字を出しても、結果そのものがずれてしまうからです。
人との関係も、少し似ていると思います。
その人の「普通」を知らないまま、僕はいきなり、良し悪しを測ろうとしていた。
ゼロ点合わせとは、その人を評価する前に、その人にとっての「普通」を知ろうとすることです。
よく話す人なのか、考えてから話す人なのか。分からない時にすぐ聞く人なのか、ある程度調べてから聞く人なのか。緊張すると黙る人なのか、普段から静かな人なのか。
その人の「いつも」を知らないままでは、目の前の沈黙が、不安なのか、集中なのかさえ分かりません。
そして大事なのは、この比喩の向きです。
合わせるのは、相手ではありません。相手を見る、僕の物差しの方です。
相手を測定して、タイプを見抜こうという話ではない。僕の側の基準がずれたままだと、これから先のすべてを測り間違える。だから最初に、自分の物差しを合わせておく。そういう時間です。世代というひとくくりの物差しで測ろうとして外した話は、Z世代の部下がわからなかった時の記事に書きました。
前任者から、その人の仕事ぶりや性格について聞くことはあります。ただ、それを答えにはしないようにしています。
前任者が見たのは、前任者との関係の中にいた、その人です。僕との関係では、違う姿が見えるかもしれない。
引き継ぎメモは、前の人が見た景色のメモくらいに置いておく。
その人のゼロ点は、相手と話し、やり取りを重ねながら合わせていく。今は、そう考えています。
もう一つ、あとから気づいたことがあります。その人の「普通」には、性格や話し方だけでなく、話し始めるまでに必要な時間も含まれていました。
すぐに話せる人もいる。少し雑談をしてから話せる人もいる。いつもの30分が終わる頃に、ようやく本当の話が出てくる人もいる。
ゼロ点合わせとは、その人が何を話すかだけではなく、どのくらいの時間と空気があれば話せる人なのかを、知ることでもありました。
そして、ゼロ点合わせは、初回の30分で完成するものではありません。関係が続く中で、少しずつその人の「いつも」が見えてきます。
「いつも」が見えてくると、できることが増えます。相手の元気がない気がする日。言葉が少し重い日。何かを抱えていそうな空気がある日。そういう時は、いつもより長めに時間を確保するようにしています。
本当に聞きたかった話は、こちらが用意した30分の前半に出てくるとは限らない。
普段の時間を過ぎたあたりで、少し空気が緩んで、話しやすくなることがあります。そこで答えを急がずに待つ。あるいは最後に、念押しでもう一度だけ言葉を置きます。
「他には、ありませんか」
すると、それまでの話とは別の、本当に気になっていたことが出てくることがあります。そこから話が始まって、面談を30分延長したこともあります。
初回に「何か質問ありますか」と聞いた時は、沈黙しか返ってきませんでした。言葉はほとんど同じなのに、返ってくるものが違う。
質問が悪かったのではない。その質問を置くまでに、相手が話せる空気になっていなかった。
ナギ(心の声)
最初の30分で、理解を完成させなくていい
では、今の僕が初回の1on1で何をしているか。少しだけ書きます。ただし、これは正解の手順ではなく、話しすぎていた僕の、自分向けの工夫です。
まず、自分のことを少し話します。どんな進め方をするのか。どのくらいの段階で相談してほしいのか。分からない時に、どんなふうに声をかけてもらえばよいのか。武勇伝ではなく、相手に話してもらうための材料として、自分の取扱説明書を先に少し出す感覚です。上司が先に少しだけ弱いところを出すと場が変わる、という話は心理的安全性の記事にも書きました。
そのうえで、意識しているのは「7割以上は部下に話してもらおう」という目安です。
「7割話してもらう」は、部下を測る数字ではありません。僕が話しすぎていないかを見るための、自分側の目盛りです。
7対3が正解という意味ではありません。初回にそこまで話してもらえないことも、普通にあります。それでも目盛りがあると、「今日もまた説明会をやっていないか」と、途中で気づけるようになりました。
そして何より、あの30分で、相手を理解しきる必要はありませんでした。
初回1on1の成果は、本音を聞けた量ではない。次も話してよいと思ってもらえたかどうかだ。
だから、今なら、初回の面談をこう締めたいと思います。
「今日は全部話さなくて大丈夫です。また次に、続きを聞かせてください」
最初の30分の仕事は、聞き出すことじゃない。次に話せる相手になることだった。
最初の30分で相手を理解するのではなく、次の30分につなぐ。それだけで、初回の1on1は、もう十分に仕事をしています。
📒 持ち帰り用に、3行だけ
- 初回の1on1に正解の質問はいらない。先にやるのは、自分の物差しのゼロ点合わせ
- その人の「普通」には、話し始めるまでに必要な時間も含まれる
- 初回の成果は本音の量ではなく、「次も話してよい」と思ってもらえたか
※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人が分からないように再構成しています。
— Calmly. Surely. —
もう一歩、深く知りたい人へ
初回で本音を聞き出すための本ではありません。1on1を「上司が話す時間」ではなく「部下が経験を言葉にして、次に活かすのを支える時間」として捉え直し、対話を続ける仕組みを考えるための一冊です。質問の正解集を探す前に、この時間が何のためにあるのかを整えたい人に合うと思います。
増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法
1on1を、部下の経験学習を支える時間として位置づけた定番の一冊です。テクニックの列挙ではなく「何のためにこの30分があるのか」から組み立てられているので、本記事の「ゼロ点合わせ」の先=2回目以降の続け方を考える時の土台になります。
- 1on1は上司が話す時間ではない、という前提の整え方
- 部下が経験を言語化するのを、聞いて支える技法
- 導入・継続のつまずきに対応した増補改訂版
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