「いい感じにやっといて」が、いちばん危ない − "指示の公差"を渡し忘れていた40代課長の話 −
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「いい感じにまとめておいて」と頼んだ日
若手に、こう頼んだことがあります。
ナギ
数日後、上がってきたものは、まったく違う形でした。
正直に言うと、最初に思ったのは、これです。
ナギ(心の声)
少し嫌な言い方をすれば、「察してほしかった」という気持ちもありました。こちらは考えて頼んでいる。それなのに、違うものが返ってくる。つい、相手の理解力や経験のせいにしたくなります。
その気持ちは、よく分かります。たぶん、多くの上司が同じことを思います。
でも、一度だけ考えてみてほしいんです。本当に、相手の頭の中に、自分と同じ完成図は立ち上がっていたのか、と。
この記事は、話し方のテクニックの話ではありません。自分の頭の中にある完成図を、どうやって相手の頭にも立ち上げるかの話です。
📒 先に結論(この記事の3行)
- 「いい感じに」は、指示ではなく願望。伝わらないのは、相手でなく、渡し方の問題かもしれない。
- 図面には必ず書く"公差"(どこまでのズレはOKで、どこからがNGか)を、人への指示には書き忘れていた。
- これは才能の問題ではなく、設計の問題。だから、書き足せばいい。
指示が伝わらない、その本当の原因
先に、いちばん効く話をします。伝わらない時、相手を変えるより1段速いのは、渡す情報を変えることです。
なぜなら、伝わらない原因のほとんどは、こちらの頭の中と、相手の頭の中で、見えている完成図が違うからです。
僕の場合、頭の中には、かなり鮮明な完成図がありました。こういう粒度で、こういう順番で、誰がどう使う資料なのか。70〜80%くらいは見えていた。
でも、実際に相手に渡していた言葉は、たぶん20〜30%です。目的も、使う相手も、どこまで細かく見るのかも、十分には伝えていませんでした。
自分の中では「このくらいは分かるだろう」と思っていた。でもそれは、僕が背景を知っているから分かるだけなんですよね。相手からすれば、背景も完成図も見えていない。渡されたのは「いい感じに」「ざっくり」「よろしく」という言葉だけ。
これは、指示ではありません。願望です。
特に、中堅よりも若手で起きやすい。これは若手が悪いという話ではありません。経験が少なければ、背景や前提を自分で補いきれないのは当然です。なのにこちらは、自分の頭の中の完成図を前提にして話してしまう。ズレて当たり前でした。
図面には公差を書くのに、人への指示には書いていなかった
ここで、製造業の人間として、ずっと引っかかっていたことを書きます。
図面には、寸法だけを書いて終わりにはしません。必ず「公差」を書きます。公差というのは、「ここまでのズレなら許す」という許容範囲のことです。どこまでのズレはOKで、どこから先はNGなのか。それを書かないと、作る側は判断できません。
これは、別に図面の話だけではありません。「3時に集合」と書くか、「3時頃でいい」と書くか。それも公差です。「ここは1ミリもずらすな」なのか「だいたいでいい」なのか。その許容範囲を渡して、初めて相手は動けます。
でも、人への指示では、僕はそれをやっていませんでした。「この資料を作って」とは言う。でも、どこまで詳しく書くのか、何を省いていいのか、何が絶対にズレてはいけないのか、どこは任せていいのか。そこを渡していなかった。
気づいたのは、図面で、こんな経験をした時です。
長く組んでいる取引先は、こちらの図面で問題なく作ってくれていました。ところが、初めて頼む相手に同じ図面を渡したら、「これでは作れません」と返ってきたのです。
今思えば、その図面には、必要な情報が足りていませんでした。長く組んでいた相手は、足りない部分を、関係性と経験という暗黙知で補ってくれていた。だから成り立っていた。でも、初めての相手には、その暗黙知が通じなかった。
これは、人への指示と、まったく同じです。
長く一緒にやっている部下は、こちらの雑な指示を、暗黙知で補ってくれます。だから伝わっているように見える。でも、若手や、初めて組む相手には通じない。
図面なら絶対に書く公差を、人への指示では書き忘れていた。
ちなみに、先週は「部下から返ってくるノーを、どう受け取るか」という受信の話を書きました。今週は逆に、「こちらの指示を、どう渡すか」という発信の話です。
→ あわせて読みたい:ノーと言う部下が、いちばん信用できる|“従順さ”を手放した40代課長の話
細かすぎる指示と、任せる指示|公差をどこで狭めるか
ここで、誤解を避けたいことがあります。公差は、いつも狭めればいい、というものではありません。
何でも細かく指定しすぎると、部下は考えなくなります。全部こちらの指示待ちになる。それは良くありません。
図面も、実は同じです。同じ製品を作るために厳しく決める寸法はあります。でも、すべてを狙いの値ぴったりで作ってくれ、というのは絶対に不可能です。厳しく守るべき寸法もあれば、ばらつきを逃がしていい部分もある。両方があって、初めて図面は成り立ちます。
指示も、そうです。
公差を狭めるべきなのは、失敗した時の影響が大きい仕事です。お客様に出るもの。判断に使うもの。安全や品質に関わるもの。関係者が多いもの。こういう仕事は、目的・条件・NGライン・期限・確認のタイミングまで、できるだけ明確にします。
逆に、広い公差でいい場面もあります。若手に考えてほしい時。アイデアを出してほしい時。正解がまだ決まっていない時。やり方そのものを任せたい時。こういう場合は、あえて余白を残します。
ただし、余白を残す時も、必ずこう伝えます。「ここは任せる」「ここは自由に考えていい」「ただし、この条件だけは守って」と。
余白を渡すことと、放置することは、違う。
指示を渡す前と、渡したあと
では、どうやって伝わる指示を作るか。やることは、渡す前の整理と、渡したあとの確認の二段です。
渡す前に、頭の中を書き出す。
まず、渡す前。いちばん効くのは、頭の中を一度、書き出すことです。
口頭でそのまま渡すと、自分でも何を渡し忘れたか分かりません。でも、一度書き出すと、足りない情報が見えてきます。何のためにやるのか。誰が使うのか。どこまでできていればOKか。何は外してはいけないのか。いつ、どの段階で一度確認するのか。
特に忘れがちなのが、最後の「期限と中間確認」です。締め切りが曖昧なまま、水面下で進めておくような仕事ほど、危ない。真面目な人ほど、一人で頑張って進めてくれます。でも、進捗の共有が遅れると、大きくルートを外していても、お互い気づけない。気づいた時には、時間も気持ちも、ずいぶん持っていかれています。
📒 明日、指示を出す前の3つの問い
- これは、何に使うのか(目的)
- どこまでできていれば、OKか(ゴール・範囲)
- 何は、絶対に外せないか(NGライン)
いきなり完璧を目指さなくていいんです。まずこの3つを足すだけで、公差はかなり狭まります。
僕の場合は、内容によって、参謀役の人に一度見てもらうこともあります。参謀は、こちらの言葉を、実務者に届く粒度へ翻訳してくれる存在です。ただ、参謀がいなくても大丈夫。渡す前に、自分で一度書き出すだけでいい。それだけで、指示は見違えます。(依頼を整理する型については、依頼の設計図の話やAIで頭の中を整理する話も参考にどうぞ)
渡したあとに、像が合っているかを見る。
次に、渡したあと。渡しっぱなしにしない、ということです。
僕がよくやるのは、相手に簡単に言い返してもらうことです。「どう進めるつもり?」「まず何から?」「完成イメージは、どう見えている?」と。これはテストではありません。こちらの頭の中の完成図と、相手の頭の中の完成図が、ズレていないかを見るための像合わせです。
そして、中間で見る。ズレると困る仕事ほど、完成してから見るのでは遅い。マンガ制作でいえば、プロットやネームの段階で方向性を見るイメージです。完成原稿になってから「これは違う」と言われたら、作る側もきつい。仕事も同じで、3割くらいの段階で一度見せてもらえば、手戻りは小さく済みます。
「伝わらない」は、設計の問題
昔の僕は、伝わらないのは相手のせいだと思っていました。でも、複数の人に対して、何度も同じズレが起きるなら、それはもう、自分の指示に問題がある可能性が高い。
ここは、他責では永遠に改善しません。「相手が悪い」「若手が分かっていない」と言っていれば、こちらは楽です。でも、次もまた同じことが起きる。自責に返して「どの情報を渡し忘れたんだろう」と考えて、初めて改善が進みます。
最初は、少し悔しかったです。自分ではちゃんと伝えているつもりだったので。
でも、誤解しないでほしいんです。あなたの指示が、雑だったわけではありません。これまでは、暗黙知で補ってくれる相手に、恵まれていただけです。相手が変わったのなら、書き足せばいい。それだけの話です。
「自分の設計の問題」と捉えられるようになってから、僕はむしろ楽になりました。相手の理解力のせいにすると、相手を変えるしかありません。でも、自分の指示の公差の問題だと思えば、自分で変えられます。できることが増える。
もう一つ、大事なことがあります。相手の頭に完成図を立ち上げるには、こちらが相手の位置まで降りる必要がある、ということです。
管理職は、知識や経験がある分、高い視座で見ています。でも、部下は急にその位置まで上がれません。だから、こちらが降りる。これは「未熟な部下に降りてやる」ということではなく、自分の発信を、相手に届く形に調整する、ということです。
📒 相手の頭に、像を立ち上げる3つの調整
- 情報量を合わせる(相手が知らない前提を、先に渡す)
- 言葉の粒度を下げる(自分の中の言葉のまま投げない)
- 相手の言葉を待つ(ばーっと話さず、どう理解したかを聞く)
特に最後の「待つ」は、意識しないとできません。会話をしていると、上司の思考が先行して、たくさん話したくなる。でも、そこに相手はまだたどり着いていないことが多い。こちらがばーっと話しても、相手は「あ、はい……」となる。これは、メモを取っていないという次元の話ではありません。思考が追いついていないので、何をメモればいいのかも分からない。だから、相手の言葉を待つ。
ところで、自分の指示が独りよがりになっていないかは、社内にいると気づきにくいものです。ときどき社外の物差しで、自分のマネジメントの現在地を測っておくのも、悪くありません。転職するためではなく、健康診断のように。
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最後に、要点を3つに。
📒 この記事の3行
- 伝わらないのは、相手の頭の完成図が、こちらと違うから。特に、背景を知らない相手ほど起きる。
- 図面に公差を書くように、指示にも「どこまでズレてOKで、何は絶対に外せないか」を渡す。
- 狭めるか、余白を残すかは、影響度で決める。ただし、放置と余白は違う。
先週の「ノーを受け取る」と、今週の「指示を渡す」。方向は逆ですが、根っこは同じです。発信が雑だと、相手はズレる。受信が雑だと、相手は黙る。だから、指示を渡す力と、ノーを受け取る力は、セットです。
管理職の仕事は、自分の頭の中だけでは完結しません。こちらの考えを相手に渡し、相手の違和感を受け取る。その往復で、仕事の精度が上がっていきます。管理職は、言う人ではなく、像を合わせる人です。
指示は、言った言葉で決まるのではありません。相手の頭に立ち上がった像で決まります。
だから、伝わらなかった時は、相手を責める前に、一度だけこう考えてみてください。「どの公差を、書き忘れたんだろう」と。それだけで、次の指示は、少し良くなります。
指示が下手なのではありません。まだ、公差を書き慣れていないだけです。
もう一歩、深く知りたい人へ
「頭の中にあるものを、どう相手に渡すか」。それを正面から扱った一冊が、これです。
頭のいい人が話す前に考えていること
「何を言うか」より「相手にどう届くか」。話す前に考える習慣を、具体的に整理してくれます。"指示の公差"を渡し忘れないための、土台になる一冊。
- 伝わらない原因は、話し方でなく「話す前」にある
- 相手の頭の中を想像してから言葉にする技術
- 指示・説明・1on1すべてに効く"考える順番"
あわせて読みたい:説明の"順番"でここまで伝わりやすさが変わるのか、と気づかせてくれるのが、田中耕比古『一番伝わる説明の順番』。渡す前の整理に効きます。
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