課長席の眺めは、悪くない。 − 「管理職になりたくない」あなたに、現役課長から見えた景色 −
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「管理職になんて、なりたくない」。
現役の課長ですが、僕も、ずっとそう思っていました。この席は、安くありません。
いま、それは多数派の感覚です。JMAMの2023年の調査では、一般社員の77.3%が「管理職になりたくない」と答えています(出典:日本能率協会マネジメントセンター「管理職の実態に関するアンケート調査」)。
ただ、別の調査に、不思議な数字があります。昇進前は管理職になりたくなかった人の53.3%が、実際になってみると、気持ちがポジティブに変わったというのです(出典:リクルートマネジメントソリューションズの調査レポート)。
なりたくなかった人の、半分以上が、変わった。この差は、何なのでしょうか。
以前、管理職は「罰ゲーム」なのか、という記事を書きました。あれは、僕なりの「問い」でした。今日は、その問いに1年かけて見つけた、僕の答えを書きます。
罰ゲームだった日もある。でも、それだけではなかった。課長席には、座った人にしか見えない景色がある。
📒 先に結論(この記事の3行)
- 席の値段(責任・激務)は座る前から見える。眺めは座るまで見えない
- 眺めには、苦いものも含まれる。だから正直に書く(苦さ6:配当4)
- 断るのも、正しい。これはこの記事の前提
ナギ
管理職が罰ゲームだった日も、正直ある
きれいごとから始めても仕方がないので、一番苦かった話からします。
部下のメンタル不調が、重なった時期がありました。客先からは厳しい連絡が来る。上からは説明を求められる。部下のフォローは待ったなし。その全部が、同じ週に来る。
自分の仕事は、まったく進みません。誰も褒めてくれません。責任だけが、静かに増えていく。
あの頃の僕は、はっきり思っていました。「何で自分ばっかり」。世間が管理職を罰ゲームと呼ぶなら、その通りだと思った日が、僕にも確かにあります。あの時期の僕に近い状態の話は、管理職の燃え尽きの記事に書きました。
そして、ここで一つ告白をします。
実は僕は、課長の打診を何度も断っています。
理由は単純で、技術屋でいたかったからです。管理職になれば、技術から離れる。それが嫌でした。プレイヤーとして評価される方が、分かりやすかった。
では、なぜ最後は受けたのか。
当時の僕は、飲み会で会社の文句ばかり言っている自分が、少し嫌でした。文句は言う。でも、変える側には回らない。そんな自分を続けるくらいなら、一度くらい、変える側から見てみたかった。それだけです。立派な動機ではありません。
それでも、受けてみて気付いたことがあります。
あの頃の僕は、台風の日だけを見て、この街を判断していたのかもしれない。罰ゲームの日は、確かにある。でも、毎日ではない。そして、あの時期を越えたから見えるようになった景色が、あるのです。
たとえば、こんな小さな発見がありました。係長の頃の僕は、「なんで上は決めてくれないんだ」とずっと思っていました。課長になって見えたのは、決めない上司の怠慢ではなく、簡単に決められない理由の方でした。席が変わると、同じ問題が違って見える。これが、眺めの最初の一枚です。
課長になって見えた景色①:部下の成長という、給料明細に載らない報酬
一枚目の景色は、人の成長です。
係長までの僕は、自分の成果が中心でした。自分の担当、自分の技術、自分の評価。それで完結していました。
課長になって数年経ったある日、会議で部下が説明をしていました。複雑な内容を、相手に合わせて噛み砕いて、僕より分かりやすく話していたのです。
正直に書きます。少し悔しかった。十年かけて磨いてきたつもりの技術を、目の前で軽々と越えられた気がしました。自分の価値が、少し減った気がしたのです。
でも、家に帰る頃には、悔しさより嬉しさの方が大きくなっていました。自分でも不思議な感情でした。
そしてあの日、初めて「自分がやらなくても組織は前に進む」と感じたのです。
チームの仕組みを変えて、「昔より働きやすくなった」と言われたこともあります。嬉しかった。ただ正直に言えば、そのために削ったものも、諦めたものもあります。タダで手に入る改善は、ありませんでした。
それから、気づいたら、技術ではなくキャリアの相談をされるようになっていました。これも正直、戸惑いました。僕に正解なんて持ち合わせがない。それでも誰かが人生の岐路で、僕の席のドアを叩く。その重さは、係長の頃には知らなかったものです。
管理職の報酬は、給料明細に載りません。人の成長を見届けられること。それがこの席の、一番の配当だったと思います。
課長になって見えた景色②:管理職の仕事は「捨てる勇気」だった
二枚目の景色は、自分の手の中にありました。
課長1年目の僕は、全部を自分で何とかしようとしていました。手を出して、抱え込んで、夜に自分の仕事をやる。典型的な失敗です。
そこから学んだ一番大きなことは、派手なスキルではありませんでした。優先順位を決めること。それだけです。
具体的に、何を捨てたか。
📌 僕が捨てたもの
- 毎週の定例会議を一つ。なくても回った
- 全部に目を通す確認。節目だけ見ることにした
- 自分が手を動かす仕事。得意な仕事ほど、意識して部下に渡した
正直、どれも手放す瞬間は怖かったです。会議をやめれば情報が入らなくなる気がした。確認を減らせば質が落ちる気がした。でも、落ちませんでした。落ちたのは、僕の「自分がやっている」という安心感だけでした。
だから、断言できます。
「やる勇気」より、「捨てる勇気」の方が難しい。
決める話も、手放す話も、これまで別々に書いてきましたが、結局は全部ここに行き着きます。課長席で毎日やっているのは、何かを選んで、何かを捨てる仕事です。
課長になって見えた景色③:「外」と、変えられない無力さ
三枚目の景色が、この記事で一番書きたかったものです。一番価値があって、一番苦い。
若い頃の僕は、自分たちで考え、自分たちで解決することが「正しい」と思っていました。自力で粘るのが誠実さだと、どこかで信じていました。
課長になると、他社や異業種の人と接する機会が増えます。外部の研修、業界の集まり、他部門との調整。最初はただの業務でした。でも、続けるうちに気付いたのです。
自分たちが悩んでいる問題の多くは、誰かがすでに悩み、解決している。
うちのチームが何ヶ月も格闘していた問題と同じ構図を、別の業界の人があっさり話していたことがあります。向こうでは、とっくに解決済みの「よくある話」でした。
医者の診断に迷ったら、別の医者にも聞く。セカンドオピニオンという言葉は知っていました。でも課長になって初めて、その価値が本当に分かりました。自分たちの「正解」を、外の目で確かめる。それだけで、何年も悩んだ問題が一日で片付くことがあるのです。
ここまでなら、いい話です。「視野が広がりました」で終われます。
でも、本当の眺めには、続きがあります。
外を知れば知るほど、社内の改善点が見えてくる。そして同時に、一会社員では変えられない無力さも知る。
係長の頃に見えていたのは、「改善案」まででした。あれを直せばいい、これを変えればいい。見えること自体が、ちょっとした優越感でもありました。
課長になると、その先まで見えてしまいます。なぜそれが変わらないのか。どこで止まるのか。会社の方針、組織のしがらみ、自分の権限の外側。
改善点は見える。でも、簡単には変えられない。
両方が同時に見えるのが、この席です。
これは、座る前には想像もしていなかった苦さでした。知らない方が楽だった、と思った日もあります。
それでも僕は、見えない頃には戻りたくないと思っています。
変えられないことを嘆き続けるか、変えられる持ち場に力を注ぎながら、外の視点と往復するか。僕は後者を選びました。会社だけが人生になると苦しくなるという話や、自分の保全計画で書いてきたのは、結局この往復のことだったのだと思います。
それでも管理職を断るあなたは、正しい
ここまで読んで、「やっぱり自分には要らない」と思った人へ。
その判断は、正しいと思います。
僕の周りにも、断った人がいます。途中で降りた人もいます。家庭を優先した人も、専門職を貫いた人もいます。全員、正しいと思う。本当に。
ただ、一つだけ伝えたいことがあります。
理解して選ぶことと、知らずに避けることは違う。
僕の周りで管理職を断った人たちは、避けたのではありません。選んでいました。この席に何があるかを知った上で、自分の優先順位と比べて、要らないと判断した。だから、迷いがない。
一方で、眺めを知らないまま「なんとなく怖いから」で目をつぶると、断った後もずっと、心のどこかに「あれで良かったのか」が残ります。選んだ人は振り返らない。避けた人は、振り返り続ける。
念のため、値段の側も。人事と予算は面倒ですし、上から塞がれている感覚もあります。それでも、自由にやれる領域は確実に増える。試しながら楽しむぐらいの気持ちでいい。そう思えるまで、僕も時間がかかりましたが。
打診を何度も断っていた頃の自分に、いま声をかけるなら、こう言います。「思ったより悪くないぞ」。ただ、これはあくまで僕の景色です。
最後に、明日できることを一つだけ。
断る前に、あなたの上司に聞いてみてください。「この席から、何が見えますか」。答えに詰まる上司なら、その席の眺めは推して知るべし。語り出す上司なら、その話は聞いておいて損はありません。
選ぶ前に、外の物差しを一つ
断るにせよ、受けるにせよ、一度だけ外の物差しで自分を測っておくと、その選択は「逃げ」ではなく「選択」になります。辞めるための登録ではなく、断る判断にも受ける判断にも効く物差しとして、僕は転職サイトを定点観測に使っています(いきなり登録は重いという人は、1分の自己更新セルフチェックからでも十分です)。
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まとめ|課長席の眺めは、悪くない
📌 持ち帰り
- 罰ゲームの日は、ある。でも台風の日だけで街を判断しない
- 給料明細に載らない報酬がある(人の成長という配当)
- 「捨てる勇気」と「変えられない無力さ」まで見えるのが課長席
- 断るのも正しい。理解して選ぶことと、知らずに避けることは違う
そして今、「罰ゲームだ」と自嘲しながらこの席に座り続けているあなたへ。
あなたが毎日見ているその景色には、もう名前があります。あなたは罰を受けているのではない。誰にも見えない景色を、引き受けて見ている。
課長席から見える景色は、決して綺麗なものばかりではありません。改善したいことが見えるのに変えられない日もある。理不尽な板挟みになる日もある。それでも僕は、この席の眺めは悪くないと思っています。人の成長も、組織の変化も、この席からしか見えない景色だからです。
眺めは、座った人にしか見えない。だから僕は、僕の席から見えたものを書きました。
あなたの席の眺めは、あなたにしか書けない。
— Calmly. Surely. —
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