管理職は、偉くなる仕事じゃなかった。 − "引き受けの総量"が一段増えるということ −
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昇進を、何度か断った夜のこと
課長の話をもらった時、すぐに「はい」とは言えませんでした。
何度か、断る方向で話した記憶があります。
一番嫌だったのは、人事の揉め事を自分で背負う側になることでした。係長の頃にも面倒な人間関係のトラブルはありましたが、最終的には課長にお願いできた。「ここから先は、自分ではなく課長に」という線引きが、まだできました。
もう一つは、生産性に直結しない仕事が増えること。持ち回りの業務。誰かが決めた、よく分からない課題探し。将来の会社のための、答えのない宿題。
正直、「罰ゲームみたいだな」と思っていました。
管理職はしんどい。割に合わない。なりたくない。
もし今あなたがそう感じているなら、その感覚は、おかしくありません。実際、パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」(2026年)では、「現在の会社で管理職になりたい」と答えた正社員は15.7%でした。調査を始めた2018年以降で、最も低い水準です。
この記事は、管理職のなり方の解説でも、これまで書いた記事のまとめでもありません。係長から課長になって、自分の中で何が一段増えたのか。その話です。
📒 先に結論(この記事の3行)
- 管理職になって増えたのは、仕事量ではない。自分の名前で「引き受ける量」が一段増えた。
- しんどさの正体は、見る範囲と時間軸が広がること。罰ゲームに見えて、眺めもある。
- 重いなら、何を引き受けているのかを分解すればいい。増やすか断るかは、その後でいい。
管理職になりたくなかった私が、それでも席に座った理由
正直に書くと、きれいな理由だけではありません。
何度も声をかけられて、説得された。だんだん、断るのが面倒にもなった。組織の流れもあったし、「自分しかいないのかな」という思い込みもあったと思います。
お金の面も、ゼロではありません。家計の管理をしていたので、係長の給料でも生活に困ることはありませんでした。それでも、給料が上がることに目がくらんだ面は、正直あります。ここは格好つけても仕方ない。
ただ、完全に嫌だったわけでもありませんでした。
怖いけれど、見てみたい気持ちもあった。自分がその席に座ったら、チームがどう見えるのか。今まで見えていなかったものが、見えるのか。そこには、少し興味がありました。
きれいに言い切るなら、「嫌だったけど、見てみたかった」。それが本音です。
管理職になって良かったと、毎日思っているわけではありません。しんどい日は普通にあります。でも、座ったから見えた景色は、たしかにありました。
バラバラだった出来事が、一つの重さに見えた日
係長から課長になって、いちばん変わったこと。それは、最終責任の戻り先でした。
係長の時も、責任はあります。でも、最終的には課長に戻せる部分があった。迷えば相談できるし、最後の矢面は課長が持ってくれる。ところが課長になると、相談はできても、最後は自分に返ってきます。決めるのも、説明するのも、謝るのも、部下を守るのも、自分。
もう一つ大きいのが、人事権です。業務量と予算を見て、人を増やす、減らす、配置を変える。それを説明し、部下にも伝える。良い知らせも、悪い知らせも。係長までは、人事権はありませんでした。だから、ある意味では気楽だった。「課長が決めたことだから」と線引きできた。課長になると、その線引きが消えます。
この1年、僕はいくつか記事を書いてきました。管理職は罰ゲームなのか。課長席から何が見えるのか。部下のノーをどう受け取るのか。自分の指示が、なぜ伝わらないのか。
一見、バラバラの話です。でも、ある時、ふと気づきました。全部、つながっている、と。
📒 この1年、僕が受けてきたもの
- 部下のノーを、判断材料として受ける
- 伝わらない指示を、自分の問題として出し直す
- 罰ゲームだと思う、自分の本音も見る
- それでも悪くない、という眺めも受ける
面子の問題にせず、相手のせいにせず、いったん自分の名前で受ける。並べてみて、気づきました。
ぜんぶ、引き受けの総量という一つの重さだった。
何か一つの事件で分かったわけではありません。記事を書きながら、だんだん見えてきました。「あれ、自分はずっと同じ話をしているな」と。
管理職は、偉くなる仕事ではありません。引き受ける量が、一段増える仕事です。
念のため、はっきり書いておきます。これは「自分でやった方が早い、を手放せない」という動きすぎの話ではありません。動く前に、そもそも自分が何を背負っているのか、という話です。
管理職がしんどい理由は、仕事量ではない
「管理職になったら、忙しくなった」。よく聞きます。間違ってはいません。会議も、調整も、判断も増えます。
でも、しんどさの本当の正体は、仕事量ではないと思っています。
見る範囲と、時間軸が広がること。これがいちばん大きい。
プレイヤーの頃は、自分の担当だけを見ていればよかった。課長になると、チーム全体を見る。さらに、他部署との連携や、会社全体とのつながりまで意識する。直接は見ていない範囲まで気を配るので、入ってくる情報量が、格段に増えます。
時間軸も伸びました。感覚的には、三倍くらいです。目の前の納期だけでなく、来年、再来年、その先のチームをどうするかを考える。今すぐの生産性に直結しない、会社の課題まで引き受ける。
見る範囲が横に広がり、時間軸が縦に伸びる。その面積が、引き受けの総量です。仕事の「数」が増えたというより、見ている「面積」が一段広がった。だから、重い。
ただ、これは見方を変えると、視点が広がるほど、打てる手も増える、ということでもあります。
それでも、座ったから見える眺めがある
総量は増えました。でも、増えた分だけ、見える眺めも広がりました。これは、座ってみないと分からないことでした。
経営側の目線が、少し増えた実感があります。会社全体の方針や、組織としての優先順位を考えるようになった。もっとも、それと同時に、見えなくてよかったしがらみまで見えてくる。これは、ただの愚痴かもしれません。でも、それも含めて、座ったから見えた眺めです。
チーム全体が、少しずつ動いていく。部下が成長して、前はできなかったことを任せられるようになる。自分が直接手を動かしていないのに、チームとして成果が出る。これは、プレイヤーの頃とは違う景色でした。
その上で、はっきり言いたいことがあります。
管理職を断るのも、正しい選択です。逃げではありません。
大事なのは、自分が何を大切にしているかを整理することだと思います。もっと稼ぎたい、権限があれば前向きな取り組みができる、自分で手を動かすよりマネジメントの方が向いている。そう思うなら、座ればいい。専門性を深めたい、技術で価値を出したい、生活のバランスを崩したくない。そう思うなら、断ればいい。
どちらも正しい。ただ、一つだけ。
断っていい。でも、何を断っているのかは、言葉にしておいた方がいい。
何が嫌なのか。責任なのか、評価なのか、人間関係なのか、自分の時間がなくなることなのか。そこを見ないまま断ると、あとでモヤモヤが残ります。何を引き受けたくないのかが見えていれば、その判断は、いつでも胸を張れます。
管理職は割に合わない。それでも、重さを分解する方法
しんどい、割に合わない。その感覚は、おかしくありません。責任は増える。調整も増える。自分でやった方が早いのに、我慢する。部下からはノーが返り、自分の指示は伝わらず、上からは成果を求められる。それで「しんどい」と思わない方が、不自然です。
ただ、そのしんどさを、全部まともに抱えすぎると、自分も部下もつらくなります。最近思うのは、ある程度は気楽に受け流すくらいが、ちょうどいいということです。もちろん、集中すべき案件には全力で向き合う。適当に振る舞いすぎると信頼を失う。そこは上手に乗りこなすスキルが要ります。でも、すべてを同じ重さで抱える必要はありません。
引き受けの総量が増えているのだから、重く感じるのは当然です。あなたが弱いからではない。
だから、こうしてほしいんです。
重いなら、何を引き受けているのかを、分解すればいい。
分解する、ただそれだけで、少し軽くなります。受信(部下のノー)が重いのか。発信(指示)が重いのか。手放せていないのか。人事や評価が重いのか。会社の課題なのか。それとも、まだ眺めを見つけられていないのか。
どこが重いかが分かれば、打ち手が見えます。そして、その一つひとつには、すでに記事があります。下に、自分のしんどさがどこにあるかを見るための地図と、点検リストを置いておきます。
引き受けの内訳マップ|あなたのしんどさは、どこにあるか
引き受けの総量は、大きく4つに分けられます。今いちばん重いのが、どこかを見てください。
- なぜ引き受けるか(動機):罰ゲームか、それとも眺めか。→ 管理職になりたくない時代に、課長席から見えた景色/管理職は罰ゲームか、を考え直す
- 受信(部下のノーを、どう受けるか):→ ノーと言う部下が、いちばん信用できる
- 発信(自分の指示が、伝わっているか):→ 「いい感じにやっといて」が、いちばん危ない
- 手放す(自分でやった方が早い、を超える):→ 「自分でやった方が早い」の、その先へ/役職定年と、実力の終身雇用
管理職セルフ点検リスト|重い3つだけ、選べばいい
点数を競うものではありません。当てはまらない項目があってもいい。重いと感じる3つだけ選んで、そこから手をつければ十分です。
📋 引き受けの総量・セルフ点検(12項目)
- 自分の名前で、最終判断する場面が増えた
- 人事や評価の話を、自分の名前で説明する場面が増えた
- 部下のノーを、反抗ではなく判断材料として聞けている
- 「いい感じに」で済ませず、目的・ゴール・NGラインを渡している
- 自分でやった方が早い仕事を、あえて任せられている
- 上の方針と現場の本音を、翻訳してつなげている
- 目の前だけでなく、1年後・3年後のチームを考える時間が増えた
- 会社や組織全体の課題を、自分ごととして考える場面が増えた
- 管理職は罰ゲームだ、という自分の本音を、否定せずに見られている
- それでも、この席だから見える眺めが、一つでもある
- 社内の評価だけでなく、社外の物差しでも現在地を見ている
- この先、引き受け量を増やすか・維持か・減らすかを、言葉にできる
※最初の2項目(最終判断・人事を自分の名前で)に当てはまらないなら、それは「まだ引き受けていない」ということ。それも一つの答えで、悪いことではありません。
重い項目が 0〜3個 なら、総量はまだ扱える範囲。4〜7個 なら、重い3つから分解を。8個以上 なら、抱えすぎのサイン。受け流す勇気と、社外の物差しを持つタイミングです。
重い項目が「任せられない」なら、手放し方の記事を。「人事や評価を伝えるのが苦しい」なら、承認の伝え方の記事を。そして「社外での自分の値段が分からない」なら、市場の物差しを一度見ておくのも手です。転職するためではなく、健康診断のように。
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管理職は、偉くなる仕事ではありません。自分の名前で引き受ける量が、一段増える仕事です。
その量の正体が見えれば、座り続けるか、降りるか、別の形で関わるかも、少し考えやすくなります。
重いなら、何を引き受けているのかを、分解すればいい。
しんどいのは、あなたが弱いからではありません。引き受ける量が、増えているからです。だったら、全部を一度に背負わなくていい。重い3つから、ほどいていけばいい。
もう一歩、深く知りたい人へ
「自分は何を引き受けたいのか」を考えるなら、この一冊が効きます。管理職スキルの本ではなく、自分のキャリアそのものを引き受けるための本です。
苦しかったときの話をしようか
管理職になるかどうかも、結局は「自分が何を大切にして、どこで価値を出すか」に行き着きます。自分の強みと向き合い、何を引き受けたいのかを言葉にする。断る判断も、座る判断も、ここから始められます。
- 強みは「好きなこと」の中にある
- 何を引き受けたいかを、自分の言葉にする
- 座るか断るか、その前に読みたい一冊
あわせて読みたい:座って「経営側の目線」を持つとはどういうことか、その実感に触れたいなら、平井一夫『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』も参考になります。
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