プレーヤー時代には、手本がいた − 管理職になって背中を見失った僕の"継ぎ足しの見本帳" −
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プレーヤー時代には、手本がいました。
明らかに「この人がお手本」と言える人が、身近にいたんです。仕事の進め方。会議での立ち振る舞い。報告の仕方。見て、覚えられました。あの頃は、前を歩く背中が、ちゃんと見えていました。
でも、管理職になった時。
「この人みたいに判断したい」「この人みたいに聴きたい」「この人みたいに任せたい」。そう言える人が、急に見つからなくなりました。判断に迷って「こういう時、あの人ならどうするだろう」と考えても、ぴったり当てはまる人が、出てこないのです。
プレーヤー時代には、手本がいた。管理職になった時、その背中だけが、急に見えなくなった。
先に、正直に書いておきます。これは「良いロールモデルの見つけ方」の記事ではありません。手本がないまま”一人目”を務めることになった側の、静かな心細さと、その置き方の話です。
📒 先に、この記事の3行
- ロールモデルを「見つけにくい」人は約8割。見つけにくくなったのは、あなたのせいでも、上の世代のせいでもない
- 手本は、一人の完成形を相続するものじゃない。何人もの断片に自分の色を足して綴じる(継ぎ足しの見本帳)
- 完成形にはなれなくても、断片なら渡せる。手本がないなら、自分がこの見本帳の一冊目になる
ナギ
手本がないのではなく、「受け取る仕組み」が変わっていた
手本が見つからないのは、探し方の問題ではありませんでした。
管理職になってしばらくして、ようやく分かったことがあります。手本がないというより、手本を受け取る仕組みが変わっていたのです。
昔は、「背中を見て育て」という空気がありました。実際、若い頃はそれで学べる部分が大きかった。毎日同じ場所で、同じ人の仕事ぶりを見ていられたからです。でも、自分が管理職になる頃には、その前提が崩れていました。上司も忙しい。自分もプレイヤー業務を持っている。働き方も変わっている。毎日ずっと隣で見て盗む、という形は、もう成立していませんでした。
これは、僕だけの感覚ではないようです。パーソルキャリアのJob総研が2026年7月に発表した「2026年 キャリアに関する意識調査」(就業中の社会人469人)では、ロールモデルが「欲しい」人が7割を超える一方、「見つけにくい」人は約8割にのぼりました。欲しいのに、見つからない。その感覚を、多くの人が抱えています。
なぜ、こうなったのか。調査の分析は、転職が当たり前になったこと、組織がフラットになったこと、リモートワークが広がったことを挙げています。職場で日常的にキャリアを語り合う機会や、長く関係を築く機会そのものが、減ったのです。
ここで、ひとつだけ、はっきり書いておきたいことがあります。
上の世代が悪かったのでは、ありません。あの人たちも、その時代のやり方の中で必死でした。背中で見せることはできても、言葉で残す仕組みが、まだ少なかった。ただ、それだけのことです。誰かのせいにできる話では、ないのだと思います。
継ぎ足しの見本帳|断片は、たくさんもらっていた
完成形の手本は、いませんでした。でも、あるとき気づいたのです。断片なら、たくさんもらっていた、と。
たとえば、ある上司からは、慌てない姿勢をもらいました。トラブルが起きた時、その人は声を荒げませんでした。まず、事実を分ける。誰が悪いかより、次に何を止めないといけないかを見る。隣でそれを見ていた時間は短かったけれど、あの静かな横顔は、いまも僕の中に残っています。
別の人からは、任せ方をもらいました。全部を細かく指示するのではなく、目的と制約だけを渡して、あとは任せる。もちろん、失敗することもあります。それでも任せる。「任せないと、人は育たないから」。その言葉の意味は、ずっと後になってから、じわじわ効いてきました。
また別の人からは、黙って待つ時間をもらいました。部下が言葉に詰まった時に、すぐに助け舟を出さない。少しだけ、待つ。その沈黙を、相手が考える時間として扱う。若い頃の僕は、あの沈黙が少し怖かった。でもいまは、あれが大事な技術だったのだと分かります。
そして、白状すると、反面教師のページもあります。この言い方は、部下を閉じさせるな。この任せ方は、丸投げに見えるな。このタイミングで黙ると、見捨てたように見えるな。そういう「こうはしない」という失敗例も、僕の見本帳には、ちゃんと綴じてあります。
おもしろいことに、先ほどの調査の報告も、同じことを指摘していました。「理想の一人」を探す時代から、「参考になる複数人」を自分のロールモデルにする時代へ変わってきた、と。いわばパッチワーク式です。手本を一人からもらえないなら、何人もの断片を集めて、一冊に綴じればいい。この考え方は、僕の思いつきではなく、いまの働き方の実態そのものでした。
僕はこれを、心の中で「継ぎ足しの見本帳」と呼んでいます。
ただし、断片を集めるだけでは、終わりません。あの人の慌てない姿勢と、あの人の任せ方と、あの人の待つ時間。それをそのまま並べても、ちぐはぐなままです。そこに自分の色を加えて、ようやく、一つの人物像になっていく。
手本は、もらった断片に、自分の色を足して、ようやく自分の型になる。
ナギ
誰も教えてくれなかった1ページ
ただ、見本帳には、どうしても誰からももらえないページがあります。
正解のない判断を、最後に自分で引き受ける場面です。
若い頃の僕は、正しい答えを探していました。技術的に正しい。ルールとして正しい。上司が納得する。関係者が反対しない。そういう答えを探して、だいたい見つかっていました。プレーヤーの仕事には、正解に近いものが、まだあったからです。
でも、管理職になると、正しい答えが一つではない場面が増えます。部下の事情がある。組織の都合がある。納期がある。お客様がいる。誰かを優先すると、別の誰かにしわ寄せがいく。そういう場面で、最後に何を優先するか。これは、誰もきれいには教えてくれませんでした。
中でも、人に関わる話は、いちばん手探りでした。
人事に関わる話ほど、原理原則だけでは進みません。こちらの正しさを押しつけても、相手は動かない。かといって、僕自身の考えを押しつけるわけにもいかない。できるのは、ひたすら聴いて、本人が自分で判断できるところまで、少しだけ一緒に持っていくことでした。
原理原則だけでは、人は動かない。聴き出して、本人が判断できるところまで一緒に行く。それが、僕が自分で書き足した1ページだった。
誰かに教わったページでは、ありません。何度も迷いながら、自分で考えて、決めて、あとから反省して。あの言い方でよかったのか。あの任せ方でよかったのか。あそこで踏み込むべきだったのか。そうやって、一ページずつ足していきました。正解のない判断を最後に引き受けることについては、管理職という席が引き受けているものの話として、別に書いたことがあります。
このページは、今でも完成していません。
でも、最近は、こう思うようになりました。完成していないからこそ、更新し続けられるのだ、と。
気づいたら、誰かの1ページになっていた
そんなふうに断片を継ぎ足してきた僕に、少し不思議なことが起きるようになりました。
最近になって、ありがたいことに、「仕事の進め方を真似しています」と言ってもらえることが、少しずつ出てきたのです。
その時に、はっとしました。
あの頃探していたような、丸ごと真似できる一人には、僕はなれません。でも、と思ったのです。
完成形の手本にはなれない。でも、誰かの見本帳の1ページにはなれる。
それでも、断片なら渡せます。落ち着いて話す一ページ。失敗した時に謝る一ページ。部下に任せる一ページ。評価を渡したあとも、関係を切らない一ページ。そういうものを、誰かが勝手に拾って、自分の見本帳に綴じてくれたら、それでいいのだと思います。
そして、手本がないことには、数は少ないけれど、良い面もありました。
完璧な手本が目の前にいたら、その人に近づくことが正解になってしまっていたかもしれません。手本がないなら、自分で選ぶしかない。どのページをもらうか。どのページは真似しないか。どこに自分のページを足すか。それを自分で決められる。不安でもありますが、自由でもあるのです。
守破離という言葉が、ふと浮かびます。管理職になると、「守」だけでは進めない場面が増えます。誰かの型を守るだけではなく、少し破って、自分の色を足していく。いつか、自分なりに離れていく。だったら、自分なりに楽しんでやったらいい。最近は、そう思うようにしています。
ナギ
まとめ|手本がないなら、自分が一冊目になる
手本のない道は、心細いです。
それは、ちゃんと前を探した人にしか分からない心細さだと思います。
継ぎ足しの見本帳は、誰かから完成形をもらう帳面ではありません。もらえた断片と、誰も教えてくれなかったページと、自分の色を足した一枚を、綴じ続けるものです。僕の見本帳は、今でも完成していません。でも、完成していないからこそ、更新し続けられます。時代も変わるし、部下も変わるし、自分の状況も変わる。だから、完成した一冊を探すより、継ぎ足していける一冊を自分で育てていくほうが、いまの時代には合っているのだと思います。
手本がないなら、自分が一冊目になる。
少し怖い言葉です。でも同時に、少し前向きな言葉でもあります。
完璧な一冊を、探し続けなくていい。今日、断片を一枚綴じれば、それでもう前に進んでいます。そしてその一枚は、いつか誰かが、勝手に拾っていってくれます。
📒 持ち帰り
- ロールモデルが見つけにくいのは約8割。手本がないのではなく、受け取る仕組みが変わった
- 手本は、もらった断片に自分の色を足して綴じる「継ぎ足しの見本帳」。失敗例も1ページになる
- 完成形にはなれなくても、断片なら渡せる。手本がないなら、自分が一冊目になる
ナギ
— Calmly. Surely. —
📖 参考書籍|手本がない場所で、自分の型を組み立てる
この「手本がないところから、自分の型を組み立てる」というテーマを、研究の側から支えてくれる本があります。完成形のロールモデルを探すための本ではなく、手本がない場所で最初の型を組み立てるための本として、一冊だけ置いておきます。
増補版 駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する
プレーヤーから管理職への移行でつまずくのは、あなただけではない。多くの人が同じ場所で迷うことを、調査と研究で示してくれる本です。「見て盗む」が使えない時代に、何を、どの順番で身につけていけばいいのか。手探りの一年目に、地図を一枚くれます。
- 管理職になりたての人がつまずく「7つの挑戦課題」の整理
- 手本がなくても、経験を自分の型に変える「内省」の回し方
- 完成形ではなく「移行のプロセス」として管理職を捉え直す視点
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※本記事のエピソードは、特定の個人や職場を想定したものではなく、一般的な状況をもとに再構成しています。
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