「うちは特殊なので」で、話は終わっていた − "断り文句" −
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「前の会社では、こうしていました」
そう切り出された時、僕は手元の資料から顔を上げました。別の会社で働いた経験のあるメンバーが、仕事の進め方について、提案をしてくれようとしていました。
僕は、その話を最後まで聞く前に答えました。
「うちは、ちょっと特殊だから」
会話は、そこで終わりました。悪気はありませんでした。むしろ、事情を説明したつもりでいました。
この記事で書くのは、この一言の話です。「うちは特殊なので」。管理職になってから、僕が何度も使ってきた言葉です。
先に書いておくと、「うちは特殊」という判断そのものが間違いだった、という話ではありません。もっと手前の話です。
「前の会社では」を、僕は最後まで聞かなかった
冒頭の場面には、続きがあります。
それからしばらくして、気づいたことがありました。その人から、「前の会社では」という話を、あまり聞かなくなっていました。あの一言が理由だったのかは、分かりません。ただ、僕の側に聞く準備がなかったことは、確かでした。
思い返すと、あの返事は早かった。提案の中身を聞いて、うちの条件と突き合わせて、それで出した結論だったかというと、違います。切り出しの一文を聞いた時点で、僕の中では答えが決まっていました。
なぜあんなに早く答えられたのか。あとから考えると、心当たりはいくつもありました。忙しい時間帯だった。前提の違う話を、条件から説明し直すのは手間だと感じた。外のやり方は、どうせうちには合わないという先入観が、先に立っていた。
どれも、その場では「判断」の顔をしていました。でも中身は、検討を始めないための理由でした。
「うちは特殊なので」。そう言った時、僕は何も調べていませんでした。
何が特殊で、提案のどこが引っかかるのか。それを確かめなくても、この一言は成立します。しかも管理職が言えば、相手はその先へ進みにくい。
特殊な仕事は、実際にある
「うちは特殊」という言葉自体は、嘘ではありません。
他社のやり方を、そのまま持ってこられない仕事はあります。法規が違う。設備が違う。顧客との約束が違う。どこまで責任を持つかが違う。僕自身、そういう違いを何度も見てきました。よそでうまくいった方法が、うちの条件に当てはめた途端に成立しなくなることは、実際にあります。
だから、「うちは特殊」という判断そのものを否定したいわけではありません。僕が間違えたのは、その違いを一つも確かめないうちに、答えを出したことでした。
僕は「何が特殊なのか」を説明できなかった
あの日、席で一人になってから、過去に断った提案をいくつか思い返しました。会議の持ち方のような小さな話から、仕事の順番の組み方に関わる話まで。「うちは特殊だから」で終わらせた場面は、一つや二つではありませんでした。
そして、断ったそれぞれについて、自分に聞いてみました。
- その提案は、うちのどの決まりに引っかかるのか
- 同じことを、他社はどんな条件でやっているのか
- 違うのは全体なのか、それとも一部なのか
答えられませんでした。法規なのか、設備なのか、顧客の要求なのか。「うちは特殊」と言いながら、何がどう特殊なのかを、僕は具体的に説明できませんでした。
これは、少し嫌な発見でした。断ること自体は、管理職の仕事のうちだと思っています。でも、理由を説明できない断りが積み重なっていたとなると、話が違います。僕は判断していたつもりで、判断の手前で止まっていました。
断った案件を思い返すと、僕は比較したうえで断ったのではなく、比較する前に止めていました。
実際に、うちにしかない条件はありました。でも、その条件の外まで全部「特殊」で囲っていた。
狭かったのは、僕が見ていた範囲でした。
理由の顔をした「断り文句」
僕は、こうして検討を止めてしまう言葉を、この記事では「断り文句」と呼びます。本人には話を終わらせるつもりがなくても、その言葉だけで検討が止まることがあります。
「うちは特殊なので」は、僕にとってその一つになっていました。事情を説明したつもりでした。でも、この一言のあとに検討が始まった記憶が、僕にはありません。
断り文句は、理由の顔をして、理由を確かめずに済ませてくれます。
ここが、この言葉のいちばん厄介なところだと思います。
では、何を失っていたのか。相手が黙ったことでは、ありません。
外から入ってきた話を検討する機会を、僕が自分で減らしていました。
別の会社で働いた経験のある人は、うちのやり方を外の目で見られる、数少ない存在です。その人の「前の会社では」は、比較の入口でした。僕はその入口を、届くたびに「特殊」の一言で棚へ上げていました。
よいやり方がチームの横で止まっていた話は、前に書きました。今回はその外側です。外から届いていたやり方を、僕自身が止めていました。
断る前に、一つだけ聞く
それから、やり方を一つだけ変えました。
「うちは特殊なので」が口から出そうになったら、答える前に、これを聞きます。
ナギ
聞くと、話は続きます。相手の説明の中に、うちの条件と本当にぶつかる部分と、そのまま使えそうな部分が、分かれて見えてきます。必要なら、もう一つだけ続けます。「では、その中で、使えそうなところはありますか」。
この一問には、もう一ついいところがあります。
違いを説明する過程で、提案した側も自分の案を整理できます。「そこは前の会社でも条件次第でした」と、相手から条件が出てくることもあります。
そうなると、検討は僕一人の仕事ではなくなります。
順番は、これだけです。聞く。確かめる。決める。採用するかどうかは、最後に決めればいい。
聞いた結果、本当に使えないこともあります。うちの条件と正面からぶつかっていて、動かせない。それなら、断っていい。
ただ、同じ「断る」でも、中身が変わりました。聞いてから断る時は、断る理由を自分で言えます。聞かずに終わらせた時は、それが言えませんでした。
この一問は、頭の中で考えるだけだと、たぶん元に戻ります。口に出して、相手に聞く。そこまでで一つです。
まとめ|答える前に、違いを一つ確かめる
📒 持ち帰るのは、この3つ
- 「特殊」と答える前に、何が違うか確かめる
- 他社のやり方は、そのまま採用しなくていい
- 聞いたあとで、使うか断るかを決める
今の僕がやっているのは、一つだけです。
「前の会社では」「他の部署では」と聞こえたら、返事を急がず、まず最後まで聞く。それだけでも、返す言葉は変わりました。
「うちは特殊なので」が出そうになったら、僕は一度止めます。
「どこが、うちと違うんですか」
聞いた結果、本当に使えないこともあります。それなら断ればいい。
僕がやめたかったのは、断ることではなく、聞く前に終わらせることでした。
※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人が分からないように再構成しています。
— Calmly. Surely. —
「うちは特殊」の外側を、一度見てみるなら
会社の外の人と話すと、「うちでは普通」だと思っていた仕事に、別の名前が付いていることがあります。僕自身、一度それを見に行って、今の場所へ戻ってきました。
社内にいるだけでは、自分たちの仕事のどこが普通で、どこが珍しいのかは、分かりにくいものです。
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