部下に退職代行を使われたら − “代理人を立てられた距離”を考える40代課長の話 −
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ある日、知らない番号から電話がかかってくる。
出ると、相手は部下本人ではありません。代理の会社の人です。「本日付で退職のご連絡です」と、淡々と告げられる。
最初は、内容が頭に入ってきません。
え、誰の話ですか。本当に本人の意思なんですか。今日から、もう来ないということですか。そんな確認ばかりが、先に立ちます。
でも、少し落ち着いたあとに残るのは、たぶん怒りではありません。
黙って辞めた、だけではない。言える場所が、もう残っていなかったのかもしれない。
辞めることそのものよりも、「本人が自分に言うのではなく、代理人を立てる必要があった」という事実のほうが、重く残る。退職代行を使われた日というのは、退職を知った日というより、自分と部下のあいだにあった距離を、第三者から突きつけられた日なのかもしれません。
📒 先に、この記事の3行
- あなたが薄情なのでも、相手が無責任なのでもない。あったのは「代理人を立てられた距離」です
- 自分を責めるのは、半分正しくて、半分間違っている
- 慌てないための初動は3つ。そして次の1on1で、最後の1分を急がない
ナギ
最初に来るのは、怒りでも悲しみでもなく、戸惑いだと思う
部下に退職代行を使われた上司が、まず感じるもの。それは、怒りでも悲しみでもなく、戸惑いだと思います。
そして、その戸惑いの中心には、たぶん一つの言葉があります。
「なぜ、僕に直接、言ってくれなかったんだろう」
辞めること自体は、受け止められます。人は辞める。それは止められないし、止めるものでもありません。でも、その連絡が、本人の口からではなく、第三者から来た。そこに、ひっかかる。
退職という事実より、「直接、言ってもらえなかった」という距離のほうが、効いてくるのです。
退職を知った日と、距離を知った日は、同じ日に来ます。でも、心に残るのは、後者のほうです。
責任感があるからこそ、言えなくなる
ここで、自分のことも正直に書いておきます。
僕自身、交渉ごとや、相手に嫌なことを伝えるのは、得意ではありません。だから、退職代行を使いたくなる気持ちは、分からなくもないのです。何なら、本人と感情的に話すより、代理人を通したほうが、お互い役割に徹せて楽なのかもしれない。そう思う自分も、どこかにいます。
だから、まず一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
退職代行を使うことを、「無責任」とは、簡単には言えません。
パーソル総合研究所の調査(2025年12月発表)では、離職した人のおよそ20人に1人が退職代行を利用していました。そして意外なことに、利用した人ほど、協調性が高く、責任感が強い傾向があったのです(出典:パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」)。
現場感としても、これは腑に落ちます。
本当に無責任な人は、もっと早い段階で、雑になります。遅刻が増える。引き継ぎをしない。周りへの影響を気にしなくなる。そういうサインが、先に出る。
でも、責任感が強い人ほど、ギリギリまで我慢してしまうことがあります。周りに迷惑をかけたくない。自分が抜けたら困る。上司に言ったら、止められるかもしれない。波風を立てたくない。そうやって抱え込んだ結果、最後には、自分の口からは言えなくなる。
協調性があるからこそ、直接ぶつかることを避けた。責任感があるからこそ、最後まで言い出せなかった。
ここを取り違えると、管理職は、何も学べません。「あいつが悪い」で終わってしまうからです。
でも、本当に考えたいのは、こちらのはずです。
あの真面目な人が、なぜ僕には言えなかったのか。
そう問い直したとき、見えてくるのが、この記事の主役です。
退職代行は、部下の人格の証明でも、自分の無能の証明でもありません。第三者を挟まなければ言えないほどの、距離がそこにあった。僕はそれを、「代理人を立てられた距離」と呼んでいます。
自分を責めるのは、半分正しくて、半分間違っている
では、上司が全部悪いのか。そうも思いません。
いまの時代、転職は、もう特別な裏切りではなくなりました。会社を移ることに、昔ほどの後ろめたさはない。準備期間さえきちんともらえれば、辞めること自体は、何も問題ではない。だから、退職そのものを、自分の失敗にしすぎる必要はないと思います。
自分を責めるのは、半分正しくて、半分間違っている。
正しい反省は、こちらです。言える場所を、作れていたか。1on1が、報告だけの場になっていなかったか。「大丈夫です」という言葉を、忙しさを理由に、そのまま受け取っていなかったか。本当は、大丈夫じゃないときほど、人は「大丈夫です」と言うのに。
過剰な自責は、こちらです。自分は上司として完全に失格だった。自分のせいで、全部が起きた。そうやって、人格まで否定してしまうこと。
📌 どこまで反省して、どこから手放すか
- 見直すこと:言える場所を作れていたか/1on1が報告会になっていなかったか/「大丈夫です」を流していなかったか
- 手放すこと:退職そのものを全部、自分の失敗にする/自分の人格まで否定する/部下を「無責任」と決めつける
見るべきなのは、自分の人格ではなく、関係の構造です。
責めるより先に、何が見えていなかったのかを見る。そこが、線引きです。
だから、明日からできる上司の初動は3つ
頭では分かっていても、その日は、感情が大きく動きます。
だからこそ、最初の動きを、あらかじめ決めておきたい。退職代行の第一報は、少し交通事故に似ています。起きた瞬間は、驚く。でも、そこで慌てて動くほど、二次被害が出る。まず止まる。確認する。そして、しかるべきルートに乗せる。感情の処理は、その後でいい。
📌 慌てないための、上司の初動3つ
- 1つめ:残ったチームには、事実だけを淡々と。誰か一人に、無理を寄せない
- 2つめ:本人に直接連絡しない。まず会社の正式ルートへ
- 3つめ:次の1on1を、「報告会」で終わらせない
1つめ。残ったチームには、事実だけを伝える。
本当は、こちらも動揺しています。でも、残ったメンバーの前で、その動揺をそのまま出すのは違う。ここで「最近の若い人は」とか「無責任だ」と言ってしまうと、残ったメンバーも、口を閉じます。次に何かあっても、もう言えなくなる。
僕なら、こういう時、いったん「凪」になります。冷たいわけでも、心がないわけでもありません。ただ、立場に求められていることを、淡々と遂行する。「急な共有になりますが、退職することになりました。事情を必要以上に詮索することはしません。まずは、いまある仕事が誰か一人に寄らないように、今日中に整理します」。そう伝えて、残ったチームの空気を、先に守る。
ただし、凪でいると、人間的な温かみは、少し減ります。だから、それだけにはしない。別の場面では、ちゃんと気持ちを出して、信頼を戻しておく。管理職は、たぶん、そのメリハリで立っています。
2つめ。本人へは、自分の判断で直接連絡しない。
本当は、直接連絡したくなります。本当に本人の意思なのか。なぜ直接言ってくれなかったのか。せめて一言だけ話したい。その気持ちは、とても自然です。
でも、代理人が入っているなら、現場の上司が感情で動くのは危ない。退職日の調整や、有給、未払いの話などは、法務や人事の確認が必要な領域です。執拗に本人へ連絡を取ろうとする行為が、退職を妨げる行為と受け取られることもあります。だからここは、自分一人で抱えず、人事や総務といった会社の正式なルートに乗せる。
念のため書いておくと、具体的な対応は、会社のルールや専門の部署に必ず確認してください。ここで伝えたいのは、法律の細かい話ではなく、「慌てて、自分一人で本人に連絡しない」という、最初の一歩のことです。
3つめ。次の1on1を、報告会で終わらせない。
退職代行を使われた日のあとに、上司ができることは、過去を巻き戻すことではありません。次の誰かに、代理人を立てさせないことです。そのために、1on1を、報告会で終わらせない。これが、いちばん地味で、いちばん効きます。
ナギ
まとめ|一本の電話を、最後の伝言にしない
最後に、いちばん伝えたいことを書きます。
問題は、退職代行を使ったことだけではありません。代理人を立てなければ言えなかった、距離のほうです。そして、その距離は、いまいる部下とのあいだにも、知らないうちに広がっているかもしれない。
僕の感覚では、30分の1on1で、本音が出てくるのは、29分目だったりします。進捗の話が一通り終わって、「他に、何かありますか」と聞いた、その最後に、ぽつりと出てくる。延長戦のような時間に、本当の話が混じっている。
だから、最後の1分を急がない。「他に何かありますか」で出てきた言葉を、次の会議の都合で、流さない。
📌 持ち帰り
- 退職は、もう特別な裏切りではない。退職代行も、無責任とは言い切れない
- でも、代理人を立てなければ言えなかった「距離」だけは、見ておきたい
- 慌てない初動は3つ。残ったチーム/本人に直接連絡しない/1on1を作り直す
- 次の1on1で、最後の1分を急がない
明日、ひとつだけやるとしたら、次の1on1の最後に、こう聞いてみてください。
「最近、僕に言いにくくなっていることは、ありますか」
たぶん、すぐには答えが返ってきません。それでも、聞いたという事実が、距離を少しだけ縮めます。
一本の電話を、最後の伝言にしない。そのために、次の一回を、報告会で終わらせない。
それくらいの一歩で、十分だと思うのです。
— Calmly. Surely. —
ナギ
選ぶ前に、外の物差しを一つ
部下の退職は、自分の立ち位置も、静かに照らし返します。
辞めるための登録ではなく、「自分の経験は、外からどう見えるのか」を一度だけ測っておく。それだけで、いまの仕事を続ける判断にも、迷いが減ります。僕は転職サイトを、その定点観測の物差しとして使っています。部下が辞めたから動くのではなく、自分の市場価値を点検する日にする。そんな使い方です。
全部に登録する必要はありません。まずは一つ、外から自分の経験がどう見えるかを測るだけで十分です。
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※本記事のエピソードは、特定の個人や職場を想定したものではなく、一般的な状況をもとに再構成しています。
※退職代行への具体的な対応は、会社のルールや人事・法務などの専門部署に必ずご確認ください。
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