気楽に話せることと、対等であることは、同じではなかった。 − 面接官席で考えた"片側公差" −
正直に言うと、僕は面接官席を「怖い」と思ったことが、あまりありません。
相手の緊張を少しでも解きたい。こちらも構えすぎず、普通に話したい。面接は、お互いにもう少し気楽でいいと思っていました。
だから今回、就活セクハラへの対策が義務化されると知った時も、最初は「そんなに身構えなくても」と思ったんです。
でも、記事を書くために一つずつ考えてみると、気楽に話せることと、力が対等であることは、同じではありませんでした。
先に書いておくと、これは「面接で聞いてはいけないことリスト」の記事ではありません。面接官を怖がらせる記事でもありません。
面接をもっと気楽にするために、質問する前に一つだけ持っておく。そんな物差しの話です。
📒 先に、この記事の予告を3行
- 面接は、必要以上に怖がらなくていい。普通に相手へ興味を持って、仕事の話をすればいい
- ただし、気楽に話せることと、力が対等であることは、別物だった
- だから、質問の余白だけは、こちら側に置いておく。それが「片側公差」
僕は、面接の専門家ではない
最初に、僕の立ち位置を書いておきます。
採用面接に、現場の技術者として参加した経験はあります。ただし、採用を専門にしているわけではなく、回数もそれほど多くありません。主担当として進めることもあれば、現場側の面接官として質問する側に座ることもある。採用の時期に数回、という程度です。
僕は面接の専門家ではありません。現場で一緒に働く人を、技術者の目線で見ている管理職です。
ただ、こうも思います。面接官席に座るのは年に数回でも、「力が対等でない初対面」は、もっと頻繁にあります。
中途採用の面接。協力会社の方との最初の打ち合わせ。新しく来る部下候補との顔合わせ。こちらが選ぶ側、評価する側に近い席は、思っているより日常にあります。
もちろん、採用面接の法的なルールを、すべての初対面へそのまま広げる話ではありません。共通しているのは、相手が断りにくい場では、こちらの気楽さと相手の気楽さが、同じとは限らないということです。
面接で僕が何を見ているかも、正直に書いておきます。
僕は、最初から完成された技術者だけを探しているわけではありません。高い理想を掲げ続ければ、採用はなかなか決まらず、その間も現場の不足は続きます。
ある程度は、入ってから一緒に育てていく。
その前提で、仕事を始めるために必要な基礎があるか。分からない時に確認できるか。違う意見を受け取り、周囲と相談しながら進められそうかを見ています。
そんな、ごく普通の現場の面接官が、今回の法改正をきっかけに、自分の面接官席を一度だけ点検してみました。
10月から変わること。でも、それだけではなかった
まず、変わることを短く整理します。
2026年10月1日から施行される改正男女雇用機会均等法により、企業は、就職活動中の学生やインターンシップ参加者、転職活動中の応募者(法律上は「求職者等」と呼ばれます)に対するセクシュアルハラスメントを防止するための措置を講じることが、義務になります。通称「就活等セクハラ」への対策です。
今回の改正により、企業の防止措置義務が、求職活動等における求職者へのセクハラにも及ぶことになります。カスタマーハラスメント対策の義務化と、同じ日に始まります。
📒 制度メモ|2026年10月1日から
- 求職者等へのセクハラ防止措置が、事業主の義務になる(企業規模を問わず)
- 採用面接だけでなく、説明会やインターンシップなども対象
- 「面接で聞いてはいけないこと」で知られる公正な採用選考の既存ルールとは、別の制度
詳しい内容は、厚生労働省の公式ページに整理されています。企業が講じるべき措置の中身は、そちらに任せます。
僕が立ち止まったのは、義務の内容よりも、その背景にある数字でした。
厚生労働省の調査では、インターンシップ以外の就職活動を経験した回答者737人のうち、31.9%が就活等セクハラを受けたと答えています。インターンシップ中についても、別の集計で30.1%。
この調査の対象者では、約3人に1人です。
僕の目の前に座る応募者も、それまでにどんな選考を経験してきたのか、こちらには分かりません。そう考えると、これは遠い話ではありませんでした。
一つ、整理しておきたいことがあります。
実は、「面接で聞いてはいけないこと」自体は、今回新しく生まれたルールではありません。本籍・出生地、住宅状況、家族、宗教や思想・信条などは、本人の適性・能力に関係せず、就職差別につながるおそれがあるため、採用選考で把握しないよう配慮すべき事項として以前から示されています。今回2026年10月から新たに加わるのは、それとは別に、性的な言動そのものを防ぐための、均等法上の措置義務です。
最初に「そんなに身構えなくても」と思った僕ですが、この数字と仕組みを眺めているうちに、一度だけ、自分の面接を振り返ってみようと思いました。
※制度の詳細や、個別の質問がどこまで適切かの判断は、本記事では扱いきれません。実務では厚生労働省の一次資料と、自社の採用担当部門に必ず確認してください。
面接官席から見えていた景色は、半分だった
面接官席に座ると、相手がこちらを怖がっているようには、必ずしも見えません。
丁寧に話してくれます。笑顔も見せてくれます。こちらの質問に、一生懸命答えてくれます。
だから僕は、「普通に会話が成立している」「和やかにできた」と思って面接を終えることが、ほとんどでした。
でも、考えてみれば、この部屋の作りはこうです。
こちらが質問する。相手が答える。こちらが評価する。そして相手は、こちらがどう評価したのかを、知ることすらできない。
もし僕の質問に引っかかるものがあっても、「その質問には答えたくありません」「なぜ、それを聞くのですか」と返すには、大きな勇気が要ります。採用の可否を握っている相手の前なら、なおさらです。
相手が礼儀正しく答えてくれるほど、僕はこの部屋の非対称さを忘れやすい。
思い当たることも、ありました。
面接では、最初から仕事の質問だけを続けると、空気が硬くなります。だから、少し雑談を入れて緊張をほぐしたくなる。住んでいる場所のこと。通勤のこと。休日の過ごし方。
会話としては、自然です。でも、質問を口に出す前に、「これは、どこまで聞いていいんだろう」と一瞬止まったことがありました。面接が終わったあとに、「あの聞き方は、大丈夫だっただろうか」と振り返ったこともあります。
相手はその場で、嫌な顔をしないかもしれません。笑って答えてくれるかもしれません。
でも、相手が拒否しなかったことを、こちらが越えていない証拠にはできないんですよね。
繰り返しますが、僕は面接官として、強い怖さを感じてきたわけではありません。面接官が必要以上に構えると、応募者まで構えてしまう。だから気楽に話すこと自体は、今も正しいと思っています。
ただ、今回あらためて考えて気づいたのは、僕が気楽に話していても、相手まで同じように気楽とは限らないということです。
怖がる必要はない。でも、同じ温度だと思い込まない方がいい。今の僕には、そのくらいの感覚がいちばん近いです。
質問の余白は、こちら側に置く。「片側公差」という考え方
以前、指示の言葉にも「公差」、つまり余白の話を書いたことがあります。あれは、伝える側の精度の話でした。今回は少し違います。力が対等でない部屋で、その余白を誰が持つかという話です。
図面の世界には、「片側公差」という考え方があります。寸法の許容範囲を、基準値のプラス側とマイナス側へ均等に取るのではなく、片方にだけ持たせるやり方です。
会話にも、余白があります。
対等な関係なら、言葉の行き違いが起きても、お互いが聞き返したり、言い直したりして吸収できます。余白を、双方が持っている状態です。
でも面接室では、その幅を相手に期待できません。「相手にも少し我慢してもらう」という幅は、この部屋にはない。
片側公差とは、応募者の我慢や言い返しを、安全の余白として当てにしないことです。
質問を止める。言い直す。そもそも聞かない。そうした余白を、こちら側に置いておきます。
といっても、面接官だけが緊張し続ける、という意味ではありません。
この部屋で、言葉の余白を持つ責任があるのは、僕の側だけだ。
そう置いてみると、腑に落ちるものがありました。
カスハラの場面では、僕は理不尽な言葉から部下を守ろうとする側でした。こちらがどれだけ言葉を選んでいても、向こうから強い言葉が飛んでくる。あの部屋では、余白を相手に期待できないつらさを、受ける側として知っていたはずなんです。面接室では、それが逆になる。僕自身が、悪気なく相手を傷つけうる側に座っていた。それだけのことでした。
じゃあ、質問を怖がって黙るのかというと、そうではありません。
僕も最初の頃は、「どこまで聞いていいんだろう」と、かなり構えていました。今は、仕事との関係を自分で説明できる質問なら、必要以上に怖がらなくてもいいと思っています。仕事との関係はあるものの、答えにくさがありそうな質問では、「答えにくければ、答えなくて大丈夫です」と先に添えることもあります。
ただし、それを言えば何でも聞いてよいわけではありません。そもそもその質問を面接で聞く必要があるのか。それは、別に考えなければいけないことでした。
まとめ|面接は、もっと気楽でいい
白状すると、協力会社との初回打ち合わせでも、部下候補との顔合わせでも、毎回「ここは非対称な部屋だ」と考えているわけではありません。正直、そこまで頭を回す余裕がない時の方が多いです。
だからこそ、全部を考え続けなくても済むように、物差しを一つだけ持っておくことにしました。
相手は、この場で断りやすいだろうか。
それだけです。
悪気はなかった、は、応募者の前ではいちばん危ない言葉かもしれません。だから、「悪気はなかった」で済ませないために、聞く前に一度だけ考える。使い方は、二段階です。
まず、厚生労働省が採用選考で把握しないよう示している配慮事項ではないか。先ほど整理した、本籍・出生地、住宅状況、家族、宗教や思想・信条などです。厚生労働省はその中で、特に家族に関する質問を、「面接の空気を和らげるために聞いてしまうケースが多い」と注意しています。アイスブレイクのつもりの一言が、いちばん危ない。僕の実感とも重なります。
その外側で、もう一度だけ考えます。
この質問は、仕事との関係を、自分で説明できるだろうか。
説明できるなら、必要以上に萎縮せずに聞く。説明できないなら、いったん止める。
境界の具体的な判断まで、この物差しで済ませるつもりはありません。迷ったら、厚生労働省の資料と、自社の採用担当に確認する。個人の感覚だけで完結させないことも、決めています。
質問を選ぶ僕の緊張は、答えながら評価される側の緊張と、同じではない。そこを取り違えなければ、あとは普通に、相手へ興味を持って、仕事の話をすればいい。
念のため書いておくと、気楽になるべきは、面接官が作る部屋の空気のことです。応募者に「気にしすぎるな」と言う話では、まったくありません。
面接官が善意だったかどうかではなく、応募者が断りにくい部屋だったという事実から、質問を考えたい。今回の点検で、僕に残ったのはこの一つでした。
面接は、もっと気楽でいい。
ただ、その気楽さを作る責任は、質問する側にある。
10月の法改正を、僕はNGワードの暗記のためではなく、この部屋の力の向きを忘れないためのきっかけとして、覚えておくことにしました。
📒 面接官席に座る日に、思い出したい3行
- 面接は、必要以上に怖がらなくていい。ただし気楽に話せることと、対等であることは別物
- 相手の我慢や言い返しを、安全の余白として当てにしない。余白はこちら側に置く(片側公差)
- 聞く前に一度だけ。「そもそも尋ねない事項ではないか」→「仕事との関係を、自分で説明できるか」
※この記事は、採用を専門としない一人の現場管理職の一次体験と点検の記録です。法制度の解釈や個別の質問の適否は、厚生労働省の一次資料および自社の採用担当部門・専門家に必ず確認してください。
— Calmly. Surely. —
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